魔界少女キャシーと殺人人形

Do you know "Creepy Doll Movies"?

山本淳一監督最新作『バイオレーター』を観たぞ!

先日は都内某所にて披露された、山本淳一監督の最新ホラー映画『バイオレーター』の関係者試写会に呼んでいただいた。今回は当ブログの番外編ということで、本作を観た感想をここに寄稿する。

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しかしながら本作は、今年開催される第19回ハンブルク日本映画祭でのワールドプレミア上映は決定しているものの、肝心の日本での配給がまだ決まっていないとのこと。

 

 

それは非常にもったいない!!!

 

 

この『バイオレーター』という作品は紛うことなき山本淳一流ホラー映画の傑作であり、同時に「“正義”とは何なのか?」という昨今で語り尽くされてきたテーマに対するアンチテーゼとしての答えを提示した“今観るべき映画”なのだ。

ホラー映画であり一種のヒーロー映画とも受け取れる本作は、山本淳一監督の代表作『ミートボールマシン』にも通じるものがあるが、『バイオレーター』は世界観も切り口もまったく違う。一体どんな映画なのだろうか?どんな世界が描かれ、何を見せてくれるのだろうか?

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 この映画の物語は、自殺サイトにそそのかされて消息を絶った妹を、主人公のお姉ちゃんが探しにいくというものである。舞台となるのは、まるで現実世界から隔離されたかのような静かで小さな山村だ。

主人公が探している妹は、どうやらその村にいるらしい。しかも、自殺サイトで知り合った連中と…。妹を含めた自殺サイトのメンバーは、その村で集団自殺を決行するつもりのようなのだが、そうはいかないのがこの映画の面白いところである。

それならばどうせ自殺をしようとする人達に天罰が下るような映画なんでしょ?と思う人もいるだろうが、そんな甘っちょろい説教映画ではないことは先にお伝えしておきたい。むしろ説教とは真逆の方向に物語は突き進んでいく…。

 

ホラー映画的ガジェットを多く楽しめるのは当然、主人公が舞台となる山村に突入してからなのだが、そこで何が起き、何が飛び出してくるのかは観てのお楽しみ。とはいえ、何も紹介しないのもどうかと思うので、ここは人形ホラー映画研究家として、本作の登場人物の一人である“山村に棲む白服の少女”の紹介だけでもしておこう。

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予告編にも登場する彼女はいつも、身包みを剥がされて汚れたリカちゃん人形を手に持っており、非常にかわいいのだが同時に不気味な雰囲気を漂わせている。私のお気に入りのキャラクターだ。決してメインを飾るキャラクターではないのだが、彼女が持つリカちゃん人形の使い方には大いに注目だ!

その他にも、これまでに多くのホラー映画を観てきたファンであればついニヤけてしまうような嬉しい要素がこの映画には沢山詰まっている。人形あり!食人あり!斬首あり!クリーチャーあり!これらの要素をすべて取り入れ、なおかつ単なるホラー映画オマージュ満載の“同人映画”には陥っていないという山本淳一監督ならではの骨太な一本だ。

 

さて、この映画のクライマックスは、おもに昨今のヒーロージャンルで描かれがちな「“正義”とは何か?」というテーマに対するアンチテーゼともいえのでは…と私は考えている。それを深く突っ込んで当ブログに書こうものならネタバレになりかねないので我慢しておくが、そんな考えを想起させるクライマックスの展開は最高にかっこいい。これがまた俳優の久保新二による演説によってシーンが引き締められているので、鳥肌モノである。

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先のリカちゃん人形の少女といい、久保新二といい、また本作で主演を務めたアイドルグループ“仮面女子”の立花あんな、胡桃そらと、揃いもそろってフレッシュで味のある演技で魅せてくれるので、映画の世界にもしっかりとのめり込める。

ホラー映画とアイドルの相性がバッチリだということは、もはや当たり前の事実かもしれないが、あらためてその良さを再認識できるし、仮面女子の二人の表情の見せ方や仕草等、ファンの方々も必見であることは間違いないだろう。

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とてつもなく浅瀬な文章となってしまい申し訳ない気持ちばかりだが、2018年の邦画ホラーを代表する一本となることは間違いない映画『バイオレーター』が日本の劇場で観れることを心待ちにしている。

 

ちなみに…

あの“地獄のマッスルビルダー”こと深沢真一監督も出演しているぞ!!

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↑同じく共に関係者試写に参加された深沢真一監督のブログにも『バイオレーター』の紹介があります!

 

 

人形ホラー映画カテゴリー

ひとくちに「人形ホラー映画」とは言っても、『チャイルド・プレイ』のように実際の人形が動いて襲ってくる映画もあれば、そうでない映画もある。人形ホラー映画というジャンルは“人形”という媒体を使ってこその様々なアプローチが可能であることも魅力の一つといえるだろう。

 

では、この世界にはどのような人形ホラー映画がひそんでいるのか…?

 

◇人形ホラー映画のクラシック:【腹話術人形ホラー】

 

 腹話術人形ホラー映画とは、その名のとおり「腹話術人形が怖い映画」だ。人形ホラー映画の原点はここにあるといえる。

私が調べるかぎりでは1929年にアメリカで製作された映画“The Great Gabbo”が世界初の人形ホラー(の要素を持った)映画であり、その後、1945年にイギリスで製作された『夢の中の恐怖』というオムニバス・ホラー映画の一篇“Ventriloquist’s Dummy”で本格的な人形ホラー映画が誕生した。どちらも腹話術人形を題材にした映画である。

腹話術人形ホラーの基本的なプロットとしては、腹話術師と腹話術人形のいざこざを描くものや、主人公が腹話術人形に自身の内面を投影した結果、身を滅ぼしてしまうようなものがある。

日本の人形にまつわる怪談といえば市松人形だが、アメリカで人形の怪奇物語となれば腹話術人形というくらいには腹話術人形はクラシカルなホラー要素の一つである。90年代に発刊されたR・L・スタインによる児童向けホラー小説として名高い「グースバンプス」シリーズの中でも腹話術人形の怪奇物語が存在しているし、1959年~64年にかけて製作され、一世を風靡したアメリカのTVシリーズ『ミステリー・ゾーン』の第148話「人形はささやく」でも腹話術人形の怪奇物語が存在する。

00年以降では「SAW」シリーズで名を挙げたジェームズ・ワン監督の映画『デッド・サイレンス』(2007年製作)が腹話術人形ホラーの傑作として外せない一本となっている。

 

◇人形そのものが殺人鬼:【殺人人形ホラー】

 

殺人人形ホラー映画とは、まさに1988年に世界中の子供たちを恐怖のどん底に叩き落とした映画『チャイルド・プレイが定着させた人形ホラー映画ジャンルである。

日本の怪談にありがちな呪われた人形が不幸を招くだとか、腹話術人形によって精神に支障をきたすだとか、そんなまわりくどいことはしない。人形そのものが直接人間を殺しに来るのが殺人人形ホラーの特徴だ。

殺人人形映画の金字塔であることはもちろん、人形ホラー映画そのものの金字塔ともいえる映画は『チャイルド・プレイ』で間違いないのだが、殺人人形ホラー映画の元祖という意味ではアメリカのTVシリーズ『ミステリー・ゾーン』の第126話「殺してごめんなさい」(1963年)に登場するティナ人形がまさに先駆けといえよう。

しかしながら、ティナ人形は「あなたを殺してやるわ」などと喋りながらも、直接的に刃物などを振りかざすようなことはしない。『チャイルド・プレイ』のチャッキーのように刃物を持つ殺人人形を描いた最初の作品としては1964年にアメリカで製作された“DEVIL DOLL”という映画がある。

その他にもチャールズ・バンドが製作し、スチュアート・ゴードンが監督を務めた傑作『ドールズ』(1988年製作)やFULLMOON社の代表作ともなった「パペット・マスター」シリーズなども殺人人形ホラーの傑作としてファンが多い。

 

◇語りかけてくる人形の恐怖:【そそのかし人形ホラー】

 

そそのかし人形ホラー映画とは、人形そのものは直接的に手を下さなくとも、その人形が自分の持ち主(基本的には主人公)をそそのかし、行動を起こさせて破滅に追い込むといったタイプのホラー映画のことである。

代表的な例で挙げれば、内気な女の子が母親から貰ったスージー人形に悩みを相談していくうちにアンダーグラウンド人間性を開花していく映画『MAY メイ』(2002年製作)や、地底に棲む謎の生物へのエサとして人間をおびき寄せるため、クマのぬいぐるみが主人公に命じて行動を起こさせる映画『ザ・ピット』(1981年製作)などが挙げられる。

このジャンルはある意味で腹話術人形ホラー映画の派生ともいえる。そもそものクラシカルな腹話術人形ホラー映画というのも、腹話術師が自身の相棒ともいえる腹話術人形と生活していくうちに、まるで腹話術人形が意思を持って語りかけてくるようになり、それによって洗脳された腹話術師が殺人に手を染めてしまったりするというものが多いのだ。

そそのかし人形ホラー映画の数はそこまで多くはないが、現実の人形に対して誰もが一度は感じたことがあるであろう「今にも喋り出しそうだ。」といった感覚を実際にホラー映画として扱ってみたという、人形ホラー映画ならではの題材だ。 

 

◇恐怖のトイ・ストーリー:【おもちゃホラー】

おもちゃホラーとは、人形だけにかぎらず、ありとあらゆる玩具が襲い掛かってくるホラー映画のことだ。まさに『トイ・ストーリー』のホラー映画版である。

代表的なところではチャールズ・バンド製作の「デモーニック・トイズ」シリーズ(1992年~)や、「悪魔のサンタクロース」シリーズの5作目にあたる『キラー・ホビー/おもちゃが殺しにやってくる』(1991年製作)などが挙げられる。

このジャンルの特徴と強みといえば、恐怖の対象となる“物”が人形だけでないことにより、つねに劇中のあちこちで写りこむおもちゃ達がいつどこで襲ってくるかも分からないという恐怖感を持って楽しむことができるという点だ。

そしてなにより、バリエーション豊かなキラートイズの活躍を楽しむことができるということに他ならないだろう。

また、『キラー・ホビー/おもちゃが殺しにやってくる』や『クランプス 魔物の儀式』(2015年製作)、「パペット・マスター」シリーズと「デモーニック・トイズ」シリーズが対決する番外編『パペット・マスターと悪魔のおもちゃ工場』(2004年製作)等、おもちゃホラーはクリスマスを題材としていることも多い。

私の中ではおもちゃホラーも人形ホラー映画のジャンルの一つとして数えられているが、明らかにその他の人形ホラー映画とは趣向が違うためカテゴリーの一つとしてカウントしている。

 

◇その他の人形ホラー映画

 

その他の人形ホラー映画として挙げたいジャンルがある。とはいえ、カテゴリー分けするほど数が多いわけでもないので、ここでは簡単に紹介する。

 

人形ホラー映画では個々の作品によって様々な人形が登場する。その中の代表的な一つとして腹話術人形ホラー映画を紹介したが、その他にもピエロ人形ホラーというものが存在する。

代表的なところでは、おしくも2017年10月19日にこの世を去ったウンベルト・レンツィ監督による『ゴーストハウス』という映画があり、私個人としてもお気に入りの一本だ。

その他には“PUPPET SHOW”(2008年製作)や“DEMON DOLLS”(1993年製作、同タイトルのリメイク版は2015年製作)などピエロ人形が主役の人形ホラー映画はたしかに存在する。

しかし、このようなピエロ人形が主役となる映画は極めて少なく、たとえ怖いピエロ人形が登場したとしてもあくまでホラー映画の要素の一つとして登場するだけのことが多い。

では、映画の主役とまではいかないが、恐怖のピエロ人形が登場する映画をいくつか挙げてみよう。

有名なところではトービー・フーパー監督の『ポルターガイスト』(1982年製作)や、ジョー・ダンテ監督の『ザ・ホール』(2008年製作)にも怖くて印象的なピエロ人形が登場する。

また、おもちゃホラーのカテゴリーでも紹介した「デモーニック・トイズ」や『クランプス 魔物の儀式』(2015年製作)にはオルゴール箱の中から飛び出す恐怖のピエロ人形が登場している。

 

◇人形ホラー映画カテゴリー一覧

 

・腹話術人形ホラー

・殺人人形ホラー

・そそのかし人形ホラー

・おもちゃホラー

・(ピエロ人形ホラー)

 

今後、このカテゴリーは増えていくことになるかもしれないが、現段階では以上のように区分している。このカテゴリー一覧だけを見てみても、人形ホラー映画というジャンルがいかに個性的で多様なアプローチの仕方を持っているかが分かっていただけると思う。

もちろん、人形ホラー映画の中にはどのカテゴリーにも区分しがたい映画も存在しているので、それらの作品もいずれは紹介していきたい。

ちなみに“呪いの人形”というものもあるが、私個人の考えでは、そもそも“呪い”という概念自体が漠然としているし、人形ホラー映画に登場する恐怖の人形たちの大半は、捉え方によってはどれも“呪いの人形”に当てはめることができたりしてしまうので、人形ホラー映画のカテゴリーとしては除外している。

 

はじめに。

はじめまして。

人形ホラー映画研究家のNekuboです。

 

人形ホラー映画?一体何のこと?…そう思う人も少なくはないでしょう。人形ホラー映画といえば、男の子が誕生日にもらった人形に襲われる映画『チャイルド・プレイ』のことを思い浮かべる人もいるでしょう。

 

 

人形ホラー映画とは、まさに「人形そのものが恐怖の対象となり、物語のカギである映画」のことを指します。

 

現代に生きる多くの人は、“人形”というものにどこか不気味さを感じたことがあると思います。例えば、どこかの家に飾られていた市松人形や、フランス人形の生々しい造型にゾッとさせられるような経験が…。

 

 そういった人形に対する恐怖の感覚というものは、子どもの頃に見聞きしたであろう人形にまつわる怪談や民間伝承が強く印象に残っていることも大きく関係しています。まさに私の人形に対する恐怖の原体験は、幼少期に観た映画『チャイルド・プレイ』でしたから。

 

 なぜ人形は怖いのか?なぜ人形は恐怖の対象になりえるのか?

 

 ここで一つだけ、早くも答えを出しておきたいことがあります。

 

 なぜ人形は怖いのか?…ということについては大きな間違いなのです。決して人形そのものは怖い存在ではありません。「人形だから怖い」という考えは誤った固定観念に過ぎないのです。このことは、人形ホラー映画の話をするうえで、ある意味もっとも大切なことですので、頭の片隅にでも入れておいてほしいですね。

 

 このブログでは、そんな人形ホラー映画というジャンルの魅力をお伝えするために、数ある個性豊かな作品の紹介も含めた短評や、ちょっとした歴史をかいつまんでみたり、最新情報などをお伝えしていけたらと思います。

【次号では…】

 

 人形ホラー映画は『チャイルド・プレイ』だけじゃない!ひとくくりに「人形ホラー映画」といっても、さらに細かくジャンル分けをすることができます。今後、個別に人形ホラー映画の短評をしていくにあたり、インデックスという形でさらにジャンル分けができていると観方も変わってくると思います。