魔界少女キャシーと殺人人形

Do you know "Creepy Doll Movies"?

人形ホラー映画カテゴリー

ひとくちに「人形ホラー映画」とは言っても、『チャイルド・プレイ』のように実際の人形が動いて襲ってくる映画もあれば、そうでない映画もある。人形ホラー映画というジャンルは“人形”という媒体を使ってこその様々なアプローチが可能であることも魅力の一つといえるだろう。

 

では、この世界にはどのような人形ホラー映画がひそんでいるのか…?

 

◇人形ホラー映画のクラシック:【腹話術人形ホラー】

 

 腹話術人形ホラー映画とは、その名のとおり「腹話術人形が怖い映画」だ。人形ホラー映画の原点はここにあるといえる。

私が調べるかぎりでは1929年にアメリカで製作された映画“The Great Gabbo”が世界初の人形ホラー(の要素を持った)映画であり、その後、1945年にイギリスで製作された『夢の中の恐怖』というオムニバス・ホラー映画の一篇“Ventriloquist’s Dummy”で本格的な人形ホラー映画が誕生した。どちらも腹話術人形を題材にした映画である。

腹話術人形ホラーの基本的なプロットとしては、腹話術師と腹話術人形のいざこざを描くものや、主人公が腹話術人形に自身の内面を投影した結果、身を滅ぼしてしまうようなものがある。

日本の人形にまつわる怪談といえば市松人形だが、アメリカで人形の怪奇物語となれば腹話術人形というくらいには腹話術人形はクラシカルなホラー要素の一つである。90年代に発刊されたR・L・スタインによる児童向けホラー小説として名高い「グースバンプス」シリーズの中でも腹話術人形の怪奇物語が存在しているし、1959年~64年にかけて製作され、一世を風靡したアメリカのTVシリーズ『ミステリー・ゾーン』の第148話「人形はささやく」でも腹話術人形の怪奇物語が存在する。

00年以降では「SAW」シリーズで名を挙げたジェームズ・ワン監督の映画『デッド・サイレンス』(2007年製作)が腹話術人形ホラーの傑作として外せない一本となっている。

 

◇人形そのものが殺人鬼:【殺人人形ホラー】

 

殺人人形ホラー映画とは、まさに1988年に世界中の子供たちを恐怖のどん底に叩き落とした映画『チャイルド・プレイが定着させた人形ホラー映画ジャンルである。

日本の怪談にありがちな呪われた人形が不幸を招くだとか、腹話術人形によって精神に支障をきたすだとか、そんなまわりくどいことはしない。人形そのものが直接人間を殺しに来るのが殺人人形ホラーの特徴だ。

殺人人形映画の金字塔であることはもちろん、人形ホラー映画そのものの金字塔ともいえる映画は『チャイルド・プレイ』で間違いないのだが、殺人人形ホラー映画の元祖という意味ではアメリカのTVシリーズ『ミステリー・ゾーン』の第126話「殺してごめんなさい」(1963年)に登場するティナ人形がまさに先駆けといえよう。

しかしながら、ティナ人形は「あなたを殺してやるわ」などと喋りながらも、直接的に刃物などを振りかざすようなことはしない。『チャイルド・プレイ』のチャッキーのように刃物を持つ殺人人形を描いた最初の作品としては1964年にアメリカで製作された“DEVIL DOLL”という映画がある。

その他にもチャールズ・バンドが製作し、スチュアート・ゴードンが監督を務めた傑作『ドールズ』(1988年製作)やFULLMOON社の代表作ともなった「パペット・マスター」シリーズなども殺人人形ホラーの傑作としてファンが多い。

 

◇語りかけてくる人形の恐怖:【そそのかし人形ホラー】

 

そそのかし人形ホラー映画とは、人形そのものは直接的に手を下さなくとも、その人形が自分の持ち主(基本的には主人公)をそそのかし、行動を起こさせて破滅に追い込むといったタイプのホラー映画のことである。

代表的な例で挙げれば、内気な女の子が母親から貰ったスージー人形に悩みを相談していくうちにアンダーグラウンド人間性を開花していく映画『MAY メイ』(2002年製作)や、地底に棲む謎の生物へのエサとして人間をおびき寄せるため、クマのぬいぐるみが主人公に命じて行動を起こさせる映画『ザ・ピット』(1981年製作)などが挙げられる。

このジャンルはある意味で腹話術人形ホラー映画の派生ともいえる。そもそものクラシカルな腹話術人形ホラー映画というのも、腹話術師が自身の相棒ともいえる腹話術人形と生活していくうちに、まるで腹話術人形が意思を持って語りかけてくるようになり、それによって洗脳された腹話術師が殺人に手を染めてしまったりするというものが多いのだ。

そそのかし人形ホラー映画の数はそこまで多くはないが、現実の人形に対して誰もが一度は感じたことがあるであろう「今にも喋り出しそうだ。」といった感覚を実際にホラー映画として扱ってみたという、人形ホラー映画ならではの題材だ。 

 

◇恐怖のトイ・ストーリー:【おもちゃホラー】

おもちゃホラーとは、人形だけにかぎらず、ありとあらゆる玩具が襲い掛かってくるホラー映画のことだ。まさに『トイ・ストーリー』のホラー映画版である。

代表的なところではチャールズ・バンド製作の「デモーニック・トイズ」シリーズ(1992年~)や、「悪魔のサンタクロース」シリーズの5作目にあたる『キラー・ホビー/おもちゃが殺しにやってくる』(1991年製作)などが挙げられる。

このジャンルの特徴と強みといえば、恐怖の対象となる“物”が人形だけでないことにより、つねに劇中のあちこちで写りこむおもちゃ達がいつどこで襲ってくるかも分からないという恐怖感を持って楽しむことができるという点だ。

そしてなにより、バリエーション豊かなキラートイズの活躍を楽しむことができるということに他ならないだろう。

また、『キラー・ホビー/おもちゃが殺しにやってくる』や『クランプス 魔物の儀式』(2015年製作)、「パペット・マスター」シリーズと「デモーニック・トイズ」シリーズが対決する番外編『パペット・マスターと悪魔のおもちゃ工場』(2004年製作)等、おもちゃホラーはクリスマスを題材としていることも多い。

私の中ではおもちゃホラーも人形ホラー映画のジャンルの一つとして数えられているが、明らかにその他の人形ホラー映画とは趣向が違うためカテゴリーの一つとしてカウントしている。

 

◇その他の人形ホラー映画

 

その他の人形ホラー映画として挙げたいジャンルがある。とはいえ、カテゴリー分けするほど数が多いわけでもないので、ここでは簡単に紹介する。

 

人形ホラー映画では個々の作品によって様々な人形が登場する。その中の代表的な一つとして腹話術人形ホラー映画を紹介したが、その他にもピエロ人形ホラーというものが存在する。

代表的なところでは、おしくも2017年10月19日にこの世を去ったウンベルト・レンツィ監督による『ゴーストハウス』という映画があり、私個人としてもお気に入りの一本だ。

その他には“PUPPET SHOW”(2008年製作)や“DEMON DOLLS”(1993年製作、同タイトルのリメイク版は2015年製作)などピエロ人形が主役の人形ホラー映画はたしかに存在する。

しかし、このようなピエロ人形が主役となる映画は極めて少なく、たとえ怖いピエロ人形が登場したとしてもあくまでホラー映画の要素の一つとして登場するだけのことが多い。

では、映画の主役とまではいかないが、恐怖のピエロ人形が登場する映画をいくつか挙げてみよう。

有名なところではトービー・フーパー監督の『ポルターガイスト』(1982年製作)や、ジョー・ダンテ監督の『ザ・ホール』(2008年製作)にも怖くて印象的なピエロ人形が登場する。

また、おもちゃホラーのカテゴリーでも紹介した「デモーニック・トイズ」や『クランプス 魔物の儀式』(2015年製作)にはオルゴール箱の中から飛び出す恐怖のピエロ人形が登場している。

 

◇人形ホラー映画カテゴリー一覧

 

・腹話術人形ホラー

・殺人人形ホラー

・そそのかし人形ホラー

・おもちゃホラー

・(ピエロ人形ホラー)

 

今後、このカテゴリーは増えていくことになるかもしれないが、現段階では以上のように区分している。このカテゴリー一覧だけを見てみても、人形ホラー映画というジャンルがいかに個性的で多様なアプローチの仕方を持っているかが分かっていただけると思う。

もちろん、人形ホラー映画の中にはどのカテゴリーにも区分しがたい映画も存在しているので、それらの作品もいずれは紹介していきたい。

ちなみに“呪いの人形”というものもあるが、私個人の考えでは、そもそも“呪い”という概念自体が漠然としているし、人形ホラー映画に登場する恐怖の人形たちの大半は、捉え方によってはどれも“呪いの人形”に当てはめることができたりしてしまうので、人形ホラー映画のカテゴリーとしては除外している。