魔界少女キャシーと殺人人形

Do you know "Creepy Doll Movies"?

『エルフ 悪魔の人形』の何がダメなのか?

『エルフ 悪魔の人形』は人形ホラー映画であるが、映像的な部分ではそのジャンルが持つ特有の魅力を潰してしまっている!というお話をします。

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これはどういうことかというと、『エルフ~』は人形が動いて暴れるホラー映画なのに、実際の人形を用いた特撮はほぼ無いに等しく、CGで表現されたアニメーションの人形が暴れまわるばかりだからだ!ということ。

え?それの何がいけないの?と思われるかもしれないが、そうした疑問に対する解答を、人形ホラー映画を愛する私なりの視点からしていこうと思う。

『エルフ~』は「チャイルド・プレイ」シリーズと同様、人形そのものが物理的に人間を襲いにくるタイプの殺人人形ホラー映画だと言える。このジャンルの最大の魅力とは、CGではない実物の人形を使っての殺人シーンを表現できることにある。

例えばホラー映画という大きな括りの中で、『13日の金曜日』のジェイソンや『エルム街の悪夢』のフレディ等、人間サイズの殺人鬼であればメイクを施した役者が演じることができ、「たしかに殺人鬼がそこにいる」という実在感を表現できるのは当然だ。

一方、人型の殺人鬼とは違ったクリーチャータイプはどうだろうか。

80年代~90年代半ばまではアニマトロニクスや着ぐるみ等で演出できていたクリーチャー達だが、CG技術の発達した現代においては、彼らの表現の大半はCGによるものとなってしまう。

それは決して悪いことではないが、CGで表現されたクリーチャーは、やはりアニマトロニクスや着ぐるみが持つ“実在感”という魅力には負けてしまう。

では、殺人人形が登場するホラー映画はどうだろうか?人間サイズの殺人鬼でもなく、クリーチャーでもない“人形”だ。

例えば「チャイルド・プレイ」シリーズの最新作『チャイルド・プレイ~チャッキーの狂気病棟~』(2017)や「パペット・マスター」シリーズの最新作“Puppet Masater: Axis Termination”(2018)を観てみても、人形が動く、話す、殺すといった表現のほとんどは撮影のために製作された実際の人形やアニマトロニクス、もしくは小人俳優を使っての表現が当たり前のように成されている。

この“当たり前”という部分は非常に大事なことであり、殺人人形ホラー映画には元より機械式・ゼンマイ式でないかぎり「本来動くはずのない人形が動き、さらには襲ってくる!」というところに怖さと面白さがある。

それを映像作品という媒体で表現するならば、CGによるアニメーションではなく、実際の人形を使って、あたかもひとりでに動いているように見せなければ意味がないということを、少なくとも「チャイルド・プレイ」シリーズと「パペット・マスター」シリーズの製作側は理解しているからこその“当たり前”なのだと私は考えているのだ。

そもそも“人形”とはエイリアンや未知の生命体とは違い、我々の生活の中に実在する身近な存在だ。誰もが一度は触れたことがあるであろう魂を持たない“物”である。

エイリアンや未知の生命体とは違って、誰もがその存在を知っていて、触れたことがあって、なんなら“お気に入りの一体”を持っていた(もしくは持っている)かもしれないからこそ、人形ホラー映画という媒体の中でその存在の実在性を最大限に表現するにはCGによるアニメーションでは意味がないのだ。

このことを踏まえたうえで『エルフ 悪魔の人形』を観てみると、この映画に登場する殺人エルフ人形が動くシーンのほとんどはCGで表現されており、なんなら人形ではなく妖精か小人なんじゃないかと思わせるほどに滑らかな動きと愛嬌のあるニヤついた表情を浮かべる。

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これははたして人形ホラー映画と呼べるのか?ただの妖精が襲ってくるホラー映画でよかったのではないか?

近年、人形ホラー映画の中にはこうした“人形ホラー映画の皮を被っただけの映画”というものがよく目につくようになった。

私には理解しがたいほどの人気を博している「アナベル」シリーズなんかもそうだ。

実在する呪われたアナベル人形を題材にしておきながら、人形とは全く関係のないところで物語が進み、人形は単なる恐怖演出のギミックとしてしか機能していない。

それなのに世間ではチャッキーに次ぐ人形ホラーアイコンとして「アナベル」シリーズが持ち上げられている…。

と、「アナベル」シリーズへの悪口はここらで控えておくが、こうした人形を恐怖演出のギミックとしてしか扱っていない人形ホラー映画(の皮を被っただけの映画)は、「人形だから怖いんでしょ?不気味でしょ?」と製作側も半笑い根性なのは確かだろう。

人形ホラー映画というジャンルと真に向き合っていくならば「人形=怖い、不気味」といった固定観念も捨てていくべきである。

恐らくは『エルフ 悪魔の人形』も製作側が人形ホラー映画の本質と、その金字塔である『チャイルド・プレイ』の本質を分かっておらず、ただ単に絵面として「チャッキーみたいなことをすればいい」という根性でやっているからこのような出来の悪い人形ホラー映画になってしまったのだろう。

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そもそも、言ってしまえば『エルフ~』は人形ホラー映画云々以前の問題で、ホラー映画としての質も良いとは言い難い。

物語を動かすために登場人物が不自然に行動を起こしてしまうという脚本のダメさや、物語の紡ぎ方そのものも下手糞だ。

エルフ人形の持ち主によってリストアップされたターゲットがエルフ人形に襲われるというアイデア自体は悪くないと思うだけに、あまりにも残念な映画である。

 

最後になるが、決して『エルフ 悪魔の人形』の何もかもがダメだとは言わない。エルフ人形のデザインは可愛いし、Trailerでも使用されている宇宙恐竜ゼットンのような鳴き声のBGMもかっこいい。

雰囲気そのものもそんなに悪くはない映画なので、おすすめはしないが興味のある方はどうぞ…とだけ言っておこう。

そして、この映画を観て「人形ホラー映画とはなんたるか?」ということを考える機会になれば嬉しいと私は思う。